ESOP

ESOP(イーソップ、イソップ)とは、『Employee Stock Ownership Plan(従業員による株式所有計画)』の頭文字をとったものであり、企業拠出による従業員に対する退職時雇用者株式給付制度を指す。米国ではEmployee Retirement Income Security Act(ERISA:従業員退職所得保障法)およびInternal Revenue Code (I.R.C.:内国歳入法典)において定義[1][2]され、制度の租税法上の適格性要件が厳格に定められた適格退職金・年金制度であり、確定拠出型年金信託の一形態である[3][4][5]。アイルランド及び英国(及びオーストラリア等の連邦諸国)においても、米国と同様の法制度が存在する。また、中国[6]、ロシア、ハンガリーなどで同様の制度導入が進んでいるといわれている。

これを実現するスキームとしては、ノンレバレッジドESOP[7]と呼ばれている株式賞与制度(stock bonus plan)とレバレッジドESOP[8]と呼ばれるマネー・パーチェス年金(money purchase)の二つの形態がある。いずれの形態も、会社従業員に会社の資産および収益を分配する仕組みであるが、特にレバレッジドESOPは、会社の資産または将来収益を担保とするエンプロイー・バイアウトの一種として構築される。

ESOPは本来より、混合経済等の社会主義的バイアスを排除し、公正な資本主義を実現する目的をもって設立されているが、最近では、バイナリ・エコノミクス(市場経済運営パラダイム)の観点から、また、従業員による資本所有(議決権保有と利益分配への参加)の効用について、コーポレート・ガバナンスの観点[9]から、この有効性が期待されている。[10]

なお、ESOPをEmployee Stock Option Planと誤解したり、従業員が株式を所有するために何らかの手助けをするものをESOPと混同するきらいがあるので注意が必要である。特に、401(k)確定拠出型年金制度における自社株投資可能部分や、423ESPP(Employee Stock Purchase Plan:従業員株式買付補助制度)などをESOPに含めて考えるのは誤りである。特に、新聞記事等で日本版ESOPと称されるスキームの中には、ESOPとは思想、目的がまったく異なる従業員持株会[11][12][13]利用スキームが含まれており、このようなスキームを、米国のESOPを参考にしたインセンティブプランなどと宣伝する悪質な金融仲介業者が数多く存在するので、注意が必要である。 

  1. ^ ERISA407条(d)(6)
  2. ^ I.R.C.4975条(e)(7)
  3. ^ 黒田敦子『アメリカ合衆国における自己株報酬・年金の法と税制』税務経理協会、1999年、p.109-115
  4. ^ 別添資料 ESOP(Employee Stock Ownership Plan)~自社株に投資する確定拠出型年金”. 経済同友会 (2000年1月16日). 2010年3月3日閲覧。
  5. ^ 従業員による株式所有を推進するための各種制度は、ESOPのほかにもRistricted stock(制限付株式賞与)、ESPPs(Employee Stock Purchase Plans:日本における従業員持株会に類似)、Broad based stock options(原則として従業員全員に広範に付与するストック・オプション、インセンティブ・ストック・オプションとは別)、401(k)プランにおける自社株投資枠などいくつかのものがある。ESOPやRistricted Stockは企業給付型であり、ストック・オプション、ESPPsなどは従業員負担型といえる。
  6. ^ NCEOの調べによれば、世界第2位の規模を持つ従業員所有企業は中国の通信会社Huaweiである。このケースでは、退職時に株式を売り戻すrestricted stock(制限付株式報酬プラン)の一種を通して95,000人の従業員のうちの61,000人によって全株式が所有されているという。退職時に株式を売り戻すことから年金給付ではないが、ノンレバレッジドESOPに近い形態といえる。また、レノボなどを傘下に持つLegend Holdingsもemployee stock ownership associationを通じて35%を従業員(約30,000人)が所有しているという。
  7. ^ 制度のスポンサーである雇用者が、雇用者会社の株式を購入するための現金を毎年拠出する形態
  8. ^ 雇用者会社によって、従業員の口座に一定の金額を拠出する制度。株式の購入に借入を併用することができる。
  9. ^ 米山秀隆「コーポレートガバナンスの改革」富士通総研経済研究所” (2001年7月16日). 2010年3月17日閲覧。
  10. ^ コーポレート・ガバナンスの観点からは、従業員所有だけでなく、消費者所有(CSOP)などステークホルダー株主化推進制度が他に提案されている。
  11. ^ 日本の従業員持株制度は、従業員にとって、小額資金を継続的に拠出することにより無理なく雇用者会社株式を購入でき、それにより、長期的に財産形成を行うことを目的としている。しかし、「このようなことが特定の制度的目的の下で推進されてこなかったという事情もあり、株価の値下がりはもとより、譲渡制限、会社経営の悪化に対する歯止め、持株会運営主体と会社との経営政策上の癒着(への対応)など、従業員の権利保護に対する側面に対して体系的な法規制を欠いている」(中西敏和「従業員持株信託と受託者の責任」『信託法研究』15号p.46‐47|信託法協会1991年)という欠点が指摘されている。
  12. ^ 従業員持株会が必ずといってよいほど置かれている。(中略)なぜ置かれているのかを考えてみれば、結局は従業員株主管理のためにあると言える。現在の従業員持株会は、一応会社から切り離された独立の団体であるが、実際には会社の一機関として活動しているといってもよく、従業員の利益になる部分もあるが、多くは会社の利益のためにある。 (道野真弘 「従業員持株会の問題点」『立命館法学』一九九七年六号(二五六号)P.340” (2000年1月16日). 2010年3月3日閲覧。
  13. ^ 従業員持株会とESOPの相違については井潟正彦、野村亜紀子「米国ESOPの概要とわが国への導入-従業員を新たな株主として位置づける時代」『知的資産創造』2001年3月号P.56-71” (2001年4月1日). 2010年3月17日閲覧。

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